頓着

戸板康二さんの「ちょっといい話」シリーズの何冊かは、志ん生集やケストナーザルツブルク日記なんかと並んでベッドサイドに置いてある。酔っていたり、気持ちが乗らないときでも、手に取れば読めるからであって、それはそれで、たいへん得難い筆力であるなあと、近頃思う。芸人についての文章が多いので、どうしても内容が古びてしまうのか、文春文庫で手頃に入手できないのが残念である。

さて、ちかごろ気になるのは、菊池寛正宗白鳥である。お二人にはたいへん申し訳ないが、彼らの文学作品ではなく、かれらご自身に興味があるのである。いや昔から、うすうす変だとは思ってたんだ…。

 菊池の秘書だった佐藤みどりさんによれば、夜行列車で大阪からの帰りに、洗面所ではずした入れ歯がなくなったといって大騒ぎをしたあと、靴をぬいだら、底から出てきた。
「あったよ」「履いていてわからなかったんですか」というと、「だって、そんなとこにあるはずがないと思っているから」。

「新々ちょっといい話」は後半が「人物風土記」で、その地にゆかりの人たちのいい話がまとめてあるので、とくにオススメである。菊池寛は香川、正宗白鳥は百間先生と同郷、岡山のご出身である。

頓着、無頓着ということについてしばし考えるものがあった。

新々ちょっといい話 (文春文庫)

新々ちょっといい話 (文春文庫)

人間・菊池寛

人間・菊池寛